控えめオスラと花のうさぎ~過去編4(新生編前日譚2)

■■■■■■■■■■の回想

――その目覚めは唐突にやってきた。

装置から放出されたボクは、眠い目を擦りながらうっすらとした照明に照らされる「木々」の間をそぞろ歩く。

歩けど歩けど、みんな起きてくる様子がないので、すこし不安になったけれど、やがて茶色い毛をしたボクらのリーダーがとことこ、ふらふらと歩いてくるのが見えた。

ボクがおはよ~!と手を振る。 こちらに気づいたリーダーは丸い頬を叩き、コホン、と咳払いをした。

「さて、1243回目の点検からは少し早い目覚めですが、あの方直々のお達しにより、あなたには特別な任務が命ぜられました。し~っかり耳を立てて聞くのですよ!!」
 そう前置いて、リーダーから告げられたのは、それはもう、驚くべきことだった。
――ボクたちが、遠くからずっと眺め、憧れた『かの地』。そこの調査を任ぜられたのだ!

ボクは思わずやったあああ!!と大声を上げてピョンピョンと跳び回ってしまった。
はしゃぎ過ぎて、近くの整備機械にぶつかりそうになり、慌てて足を止める。
気が緩み過ぎですわ!とプリプリ怒りながらリーダーは話を続ける。

「任務の内容…それはズバリ!かの人びとの世をありのままに見て、聞いて、感じて、考えること!!そして、見聞を深めたあかつきにはその情報を私達へ還元し、来たるべき時にしっかり備えるのです。
これは、わたくしたちの中でも特別な力を授かったあなただからできることですわ。……分かります?他の者には決して託せない、とっっても特別なことですのよ!! 」

本当は…本当はわたくしだって……!!キーッ!!と悔しそうに天を仰ぐリーダーはハッと我に返り、コホン、とまた咳ばらいをする。

「さて、あなたには、この幻想薬を浴びて現地のヒトへ姿を変えて頂きます。
それと、わたくしたちの暮らすこの場所は極秘の地。その時が来るまで広く知られてはならないものです。ですから、あなたがウッカリ口を滑らせることのないよう、薬には強力な口止めの術式もかけられていますの。 ここへ帰還するか、あの方のご意志で解かれるまでは、あなたの正体も、わたくしたちのことも、語ることは出来ません」

リーダーの説明を少し眠くなりながら聴き、ボクは相づちを打ちながら、転送装置に乗る。

「む、あの方から追加情報が届いているようですね。何々…?かの世界を知るため、善き旅人の名を知らせましょう。
――かの者の名は、ウイキョウ・ユキノシタ。
灰色の肌、大きな角を持つヒト。神々に愛されし地エオルゼアにて、旅をしていると……」

そのヒトを探せばいいの?そう訪ねるとリーダーは頷いた。
……どうやら、ヒトの暮らす世界も色々あって、地域によっては危ないことがたくさんあるらしい。 良くないことを考えるヒトもいる。捕まってパイにされちゃうかもしれない! だから、当分はその『善き人』に付き添い、お力になり、この中で世界を知るのがいいんだって。 ボクは大きく頷いた。

そして、大きく胸を高鳴らせていた。
ついに、ついに憧れたあの世界へ行けるんだ。ヒトビトが暮らす町、本物の森や海、花畑!
記録の中でしか知らない、素晴らしいものに触れられるんだ!!

フンフフーン♪とハミングをしながら薬の蓋を開けて、勢いよく頭から振りかけると、リーダーが転送装置が起動させた。 ちょっと眠そうだけど、大丈夫かなあ、なんてのんびり考えてたら、リーダーはアッッ!!と悲鳴を上げて飛び上がる。

「ああああ違いますわそれはエオルゼアではなく、北洋のーー」

途中で声が途切れ、ボクはエーテルの奔流の中に大きく投げ出されるのを感じた。
あれ?もしかして違う場所に飛ばされちゃうのかな? まあ、いいか!違ったら移動すればいいし、その過程で見たこともないものに沢山出会えるだろうから!

そう結論づけ、ボクは信じられない程気楽に、かの地への想いを馳せたのだった。

――そう、それが全ての始まり。
何も知らなかったボクの、長い長い、物語の幕開けだったのだ。