控えめオスラと花のうさぎ~蒼天編4
ミルラの回想
沢山のお肉でお腹を満たした翌朝、ボク達は、不浄の三塔のヴィゾーヴニルを再び訪ねた。
昨日、異端者に関わる犠牲が話題に上がったことで気まずさのあまり席を立ってしまったイゼルもどうにか調子を取り戻したみたいで、ボクはホッと胸を撫でおろす。
ヴィゾーヴニルへラーヴァナを打倒したことを伝えると、かの竜は約束どおり霊峰ソーム・アルへの道を解放してくれた。
そして、少し待っているとウイキョーがテイルフェザーから転移してきた。
遅くなってすみません、と謝る彼はどことなく疲れた様子だった。心配してきいてみると、どうも双蛇党の戦歌調査のお仕事が難航しているみたい。
史学者のシルヴィエルさんから「天空に詩聖あり」というクルザスの伝承を教えて貰ったんだけど、ギドゥロさんは只のおとぎ話だから手がかりにならないって言って、それにサンソンさんがすごく怒って、彼のココロを傷つけるようなことを言ってしまった。それで二人は物別れになって、ギドゥロだけグリダニアに帰ってしまったんだとか。
その後、「自分の言い方が悪かった」と落ち込むサンソンさんの話をずっと聞いてきて、遅くなったんだって。
「――あの二人には少し時間が必要かもしれませんね」とウイキョーは言っていた。
もしかするとこの先の地で新たな手掛かりも見つかるかもしれないし、ひとまず先を急ぐ。
気候に慣れていて守り手の役割に覚えのあるイゼルを先頭に、エスティニアンが槍を持って続き、間にボクとアルフィノ。しんがりはウイキョーが務めた。
溶岩地帯を抜け、案内された山道をボク達は上り始める。登山口には巨大な『竜毒草』が所々に茂り、毒の花粉を飛ばしてくるので、襲い来る魔物と一緒に払っていく。
そして……予想はしていたけれど、巨大な人喰い植物の巣を乗り越えたあたりから、邪竜の眷属が次々と現れ、襲い掛かってきた。イゼルは戦いを避けようと呼びかけたけれど、ドラゴン達のココロは真っ赤な怒りに覆われていて、話すどころじゃなかったから……こちらも銃を向けざるを得ない。敵の攻撃を受け流しながら呼びかけるイゼル。その敵をエスティニアンの槍が貫いていく。怒りや悲しみのココロが飛び交う中、ウイキョーはボクが過剰な感情を拾わないようにとエーテルの膜で覆い、自らも率先して敵に攻撃魔法を放っていた。きっと放っておいたらエスティニアンがどんどんドラゴンを屠って、イゼルの心証がいっそう悪くなるから、責任を分散させようとしていたのだろう。
こうして竜の群れを退けながら進んでいくと、山頂近くで邪竜の眷属・ティオマンが立ちふさがった。
ティオマンは邪竜ニーズヘッグとはいわば恋人や夫婦のような関係らしく、改めてイゼルが対話を求めようと声を掛ける。けれど、かの竜も聖地に人が立ち入ったことに怒り狂っていて……激しい戦いの上で打倒することになってしまった。
我々が対話を試みようとしているのはフレースヴェルグで、この先へ生きて到達しなければならない。アルフィノがそう言っていたけれど、やっぱり悲しい気持ちになる。
そのとき、ウイキョーが不意にふらつき、額を抑えて瞑目しする。パキ、と何かが割れる音が聞こえ、彼の身体が微かに輝いた。
きっと、また『竜の爪』による拘束が一つ解かれたんだ!そう察して駆け寄ろうとしたとき。
今度は空の向こうから竜の咆哮が鳴り響き、ボクは一瞬、大火事の中に投げ出されたような感覚に見舞われて硬直する。
ウイキョーの呼びかけで現実に引き戻されて、ふるふると頭を振って体を起こすと、エスティニアンも何だか苦しそうにしていた。どうやらティオマンが斃れたことをニーズヘッグが感知し、竜の眼を通じて怒りの感情が伝わっていたみたい。
「私の結界に覆われてなお、花のクリスタルが反応したとは……邪竜ニーズヘッグの力というものはとてつもないですね」
ウイキョーは、追撃を警戒して慎重に進むように、と言い含め、ボク達は山頂をめざす。
けれど指揮する竜がいなくなったからか、その後の山道は比較的穏やかに歩を進めることが出来た。ウイキョーが再び黒チョコボを呼び寄せ、交代で乗りながら道をゆく。それまでの疲れもあってか、その後は皆言葉少なく。チョコボの足音とともに、びゅうびゅうと風が吹き抜けていく。
そうしてどの位進んだだろうか。岩に覆われた景色が不意に開け、ボク達は息を呑む。
「これは――」
「す、すごい……」
ウイキョーも、ボクも思わず言葉を失う。
アバラシア雲海を思わせる、無数の浮島――その奥に、真っ白な、美しい宮殿が佇んでいたのだ。
きっと他の遺跡と同じ千年前の建物なのに、半壊している様子もなくて、まるで今でも誰かが住んでいるみたい。もしかしてあれが聖竜フレースヴェルグの領域なのだろうか。手入れをしている誰かがいるのだろうか?ともかく、手がかりを集めないと始まらない。
いつもだったら現地に住むヒトから情報収集していたけれど、こんなところには誰も住んでいない…と思いきや。ふわふわと、白い綿毛のようなものが視界の端に映り、振り返ると、「くぽッ!?」と声を上げて飛び上がった。間違いない、モーグリ族だ!
ボクがおーい!と手を振ったらものすごい勢いで飛び去ってしまった。慌てて追いかけたけれど、飛んで行った先にはふわふわした綿毛が浮かんでいるだけで、どこにも姿が見当たらない。試しに花のクリスタルの力を使ってみると、不安げな青紫色にチカチカ瞬いている。周囲の洞窟には明らかに集落みたいな雰囲気があって、エーテライトまで整備されているようだ。
「警戒して隠れているのだろうか」と考えるアルフィノにウイキョーも頷く。
こちらを警戒しているなら、同族を連れてくれば信じて貰えるかもしれない。そう考え、ウイキョーとアルフィノは黒衣森のモーグリ族の協力を仰ぎにテレポで一旦グリダニアへ戻ることに。ついでにギドゥロさんが戻っていたら声を掛けるつもりとも言っていた。
一方ボクはイゼル・エスティニアンとともにドラヴァニア雲海で捜索を続けることになった。対話可能なドラゴンさんがいれば、なにか話が聴けるのではないか、そう期待したから。
けれど、エーテライトプラザを離れて、周辺部を渡り歩いても、どのドラゴンも問答無用で襲ってくるか、無視して飛び去るかのどちらかだった。
「なぜ、どの竜も対話に応じてくれないのか」と落ち込むイゼル。するとエスティニアンが「事態を甘く見過ぎだ、自分たちの領地にずかずか踏み込んだ連中とそう対話出来るものか」と肩を竦め、イゼルはだからと言って何もしなければ始まらないだろう!と声を荒げる。
一気にピリつくイゼルとエスティニアンの間にボクは慌てて割って入り「二人ともケンカしないで!疲れたし、少し休もうよ~」と提案した。イゼルはハッと我に返り、ボクの提案を受け入れる。一方、エスティニアンは「俺がいてもどうせ休まらんだろう、せいぜい辺りを見廻ってくるさ」と肩を竦めて大きくジャンプし、岩を渡って遠くへいってしまった。
近くの古木へ腰かける。西部高地程では無いけれど、風は結構強くて冷たい。ウイキョーが煎じてくれた疲労回復用のお茶を取り出して口にすると、じんわりと体が温まる。
隣に腰かけたイゼルにも分けると彼女は礼を言って一口飲み、ほうっと息を吐いた。
「ひとつ、訊いてもいいか」
「うん。なあに?」
「――蛮神ラーヴァナと相対したとき。私は一人で戦うつもりだった。同じ蛮神の力を降ろして戦う以上、あなた方とは相いれないと思ったからだ。――だが、あなたは進んで共闘を持ちかけてくれた。かつて円形劇場で命の遣り取りまでした、あなたが。一体なぜ、そこまでしてくれたのだ?」
彼女の問いにボクはうーん、と少し考え、答える。
「好きだから、かな」
「す、好き……!?」
目をまんまるくして驚くイゼルにボクはうん!と笑顔で頷く。
「確かにあのときは沢山の人を傷つけたり、悪いことしたから、剣を向けたけれど……今こうやって一緒に旅をしているイゼルのことは好きだよ!だから一緒に助け合って戦いたい。そう思ったんだ」
「……伝え聞いた話ではあるが、あなた方は数々の謀略や虚偽に痛めつけられたばかりではないか。それなのに、なぜそう簡単に人を信じられる?」
そう尋ねるイゼルにボクは上手く説明の言葉が見つからなくて、自分のクリスタルを取り出して見せた。
目を閉じて集中すると、ボクの中の『花』の力が解放され、花弁状のクリスタルが淡く輝きだす。――今は、ほんのり煙った水色をしていた。
「あの時のクリスタルは綺麗な青色――深い悲しみのココロを映していた。それは他の蛮神には無かったもので……。イゼルがどれだけ一生懸命なのか、何となく分かった。だからこそ、もっと話を聴けたらって、ずっと思ってたんだ」
「それがあなたの『超える力』の能力か。……なるほど、私の未熟な心根は筒抜けだったのだな」
「うーん、でもあれだけじゃイゼルの大事にしていること、ちゃんと分からなかったと思う。だから――こうやって仲間になれて、たくさんお話出来て、すごく嬉しい!」
そう言って笑いかけると、イゼルは、フッとほほ笑んだ。
「そういえば、さっきモーグリを見た時、イゼル『可愛い』って言ってたよね」
「き、聴いていたのか……ああ、私とて可愛いものを愛でる心までは凍っていないからな」
「ふふ!まだ詳しくは言えないんだけど――モーグリの可愛さが分かるイゼルなら、いつかきっとボクの故郷にも来てよ。きっと楽しめると思う!」
「そ、そうなのか?」
「うん!いつか一緒に遊びにいこう!――あ、それとね……」
ボクは懐から小瓶を取り出す。先日、テイルフェザーで貰った熊脂にウイキョウから分けて貰ったアルジクラベンダーを漬け込んだ保湿クリームだ。
「これ。ユーワと、ユージョーの証!いい匂いがするから使ってみてよ!」
小瓶を受け取ったイゼルは香りを嗅ぎ、頬を緩める。そして「ありがとう」とはにかんだ。