控えめオスラと花のうさぎ~蒼天編2
ウイキョウの日記
「し、死ぬかと思ったでっす……」
「すみません。私としたことが、つい、魔力(ちから)任せに……」
涙目で声を震わせるタタル殿に、私は深く頭を下げることしか出来なかった。
決闘裁判が無事こちらの勝訴に終わったことには安堵している。……だが、それ以上に羞恥と申し訳なさで心が一杯だ。
闘技場の入口には、立入禁止の札が掲げられ、修理工事の人員が忙しなく駆けまわっている。その向こうには倒れた柱やひび割れた壁、そして所々に突き出した岩塊が見えた。あの様子では修理や整備で、暫く闘技場は使えないだろう。もし、私が無関係の一市民であったならばそのような世間話も出来たのであろうが、生憎、とても残念なことに、破壊行動の元凶は……ほぼ全て私なのだ。
嗚呼、本当に。あそこまでするつもりはなかったのに!どうしてこんなことになってしまったのだろうか……。
「……なあ、あいつ、一応ヒーラー……なんだよな!?」
「……その筈だが……」
心配して現場に駆けつけてくださっていたエマネラン卿やアルトアレール卿も、どことなく、心を引いたような視線を向けている。当然だ。こんな無計画で自己本位の動きをする魔道士など、まずいないだろうから……。
一方でオルシュファンは幾分食い気味に「イイ!!!」と絶賛してくれた。どうやら、私が義を貫くために身の危険も顧みずにパワフルな戦法を取ったことそのものが彼の性……心の琴線に触れたようだ。
「お疲れ様。予想を超えた展開に驚いたが、流石の腕前だ。それに、君の咄嗟の機転。見事だったよ。ミルラが君の義理の子だというなら、あちらもこれ以上手出しは出来ないだろう」
「――咄嗟に出た言葉ではありますが……結果的に良い方向へ行ったのであれば何よりです」
「これは提案なのだが……ウイキョウとミルラは当分の間、ユキノシタ姓の親子として振舞ってみてはどうだろうか」
「うむ。お前たちは以前から家族のように見られることも多かったとか。中々良い考えではないか!」
「え?……いや、しかし……」
いつの間にか物凄いペースで話が進んでいないか。私は逡巡してミルラを見るが、当の本人はパァッ目を輝かせている。
「――うん!ボク、ウイキョーのコドモになりたい!」
曇りなき眼で告げられ、私は頭を抱える。
「あのですね。そんな軽々しく……」
「ダメなの?」
哀しそうな表情で尋ねられ、私は言葉を詰まらせる。本来であれば、家族になることの意味や重大性を語るべきなのだろう。しかし私自身、血族の中で育ったわけではなく、自らの名だって厳密な意味での家名とは言えない。ならば、寧ろ彼の意思を否定する意味も無いのではなかろうか。……一通り考え、私はしゃがんで彼と目線を合わせる。
「……分かりました。あなたの希望を叶えましょう。今の状況を考えてもそう振舞うのが妥当でしょうし。――けれど、あくまで一時的な措置であることを心に留めておいてくださいね」
「やったぁ!じゃあ、今度名前を訊かれたら”ミルラ・ユキノシタ”って名乗るね!」
心底嬉しそうに飛び上がるミルラに、私はやれやれ、と肩を竦める。
「イイ……!実にイイ家族の誕生を見せてもらった。先ほどの闘いの高揚、そしてお前たち親子の絆を祝して、この笛を送ろうではないか!」
興奮冷めやらぬオルシュファンからホイッスルを受け取っていると、後ろから大型の黒チョコボがゆっくりと歩いてきた。
「わぁ!大きい!かわいい!」
「そうだろう!この美しい毛並み、たくましい翼!お前たち二人が乗っても十分に耐えるであろう!」
生き生きと熱弁するオルシュファンと顔を摺り寄せてくる大型チョコボに、私は目を白黒させる。二人乗りのフライヤ―種、しかも骨格から察するに希少な牝鳥ではないか!?こんなチョコボを外国人に提供して問題が無いのだろうか。と言うか、そもそも……。
「こ、困ります!オルシュファン卿!神聖裁判所にチョコボを招き入れるなんて!まったくもう……向こうに連れて行きますからね!?」
全速力で駆けつけてき衛兵によってチョコボは建物の外へ連れていかれてしまった。……やっぱり。
振り返れば、当のオルシュファンはやや不服そうに肩を竦めて見せたのであった。
こうして、ひととおり話も落ち着いたので、私たちは黒チョコボも連れてフォルタン家へ戻ることとした。
心配そうに帰りを待っていたフォルタン伯爵に一連の経緯を伝えると彼はホッと胸を撫でおろす。黒チョコボはフォルタン家の厩舎で預かり、私とミルラの件についても家の内外で共有し、話を併せて頂けるようだ。つくづく彼には頭が上がらない。
報告も落ち着き、解散しようとしたとき、フォルタン家の家令が駆け込み、教皇トールダン7世が私と直々に会って話がしたいと希望している旨伝えてきた。
教皇直属の蒼天騎士団と一悶着があった直後ということもあり、場に緊張が走るが、教皇猊下からの招致はこの国においては非常に名誉あること。下手に断って不敬だのなんだの因縁をつけられても面倒なので、私はあくまで誉ある立場として、教皇庁へ向かうことに決めた。
司祭に誘導されてフードを外し、教皇の間へ入ると、そこにはアイメリク殿と蒼天騎士団長のゼフィラン殿、そして中央には絢爛な祭服を纏って鎮座するトールダン7世の姿があった。事前に聞いた手順に倣って礼をし、跪いていると、教皇猊下は開口一番、私達に嫌疑をかけたことについて謝罪の意を示された。ゼフィラン殿曰く、蒼天騎士団に嘘の情報が寄せられたのだという。
――彼らの言い分には思うところが無くはないが、虚言と断定する材料も無いため、一先ずは施設を破壊して街を騒がせたことを謝罪して茶を濁す。どうやら蛮神シヴァの討伐や皇都の防衛戦の一件は政権側にも伝達され正当に評価されているらしく、今後は我々を国内で厚遇するよう各所にも通達して下さるようだ。
そして、そこまで話し終えた後、教皇猊下はアイメリク殿とゼフィラン殿を教皇の間から下がらせた。一体何をされるのか、と内心身構えるが、彼の口から出たのは意外な言葉だった。――アシエンが彼に接触を図ってきたというのだ。
私の懸念を察したのか、教皇猊下はあちらの思惑に乗るつもりはないと告げてきた。一方で向こうの思惑を探るために敢えて話を聴く素振りをされているようだ。
「奴らは、光の戦士と呼ばれる貴公の力をことのほか警戒しているようでな。だからこそ、わしとしても、貴公と協力できるのであれば、手を取り合っていきたいと思っておるのだ。エオルゼアの真なる平和のためにも……な」
「――猊下の御意思、確かに聞き届けました。我々『暁』もアシエンに対抗するため、日々手がかりを集めております。エオルゼアの平和を実現するため、今後とも有意義な情報交換が出来るよう、私も願っております」
そう告げると教皇猊下は深い皺が刻まれた顔に笑みを浮かべ、人払いを解いて謁見を終えたのであった。
教皇庁の建物から離れてから、私は大きくため息をつく。礼節を尽くし、相手の言葉から思惑を読み、有事に警戒しつつ、角を立てないよう言葉を選んで話す。……草原で大型の獣を狩って解体するより、何倍も疲れる仕事だ。アルフィノ殿はエオルゼア三国に滞在している間、こんなことばかりしていたというのだから、改めて尊敬に値する。
心なしか早足でフォルタン家に戻った私は、心配して待っていたミルラとアルフィノ殿、タタル殿と、先ほどの謁見の内容を共有した。
彼は政治的意図を分析しつつもアシエンとの関与に関しては驚きを隠せずにいた。
――思えば先日、アバラシア雲海で蛮神ビスマルクに遭遇したことを考えれば、召喚方法を伝授するアシエンの存在は必然ともいえる。早急に対策を取るべきだ、という点においては全員意見は一致するところだ。しかし、現在の『暁』の状況を鑑みると組織立った調査はほぼ不可能である。
当分は様子見に徹するしかないのだろうか、と考えていると、不意にタタル殿があっ!と声を上げる。どうやら異端審問騒ぎに巻きこまれる前に重大な情報を――ラウバーン局長の処刑敢行の噂を耳にしたのだという。
彼が亡くなればナナモ女王陛下暗殺の真相も闇に葬られかねない。私達は至急アルフィノが確保した伝手でリムサロミンサへ向かい、メルウィヴ提督と情報交換を行ったうえでラウバーン局長を救出することになった。
なお、ミルラも同行を希望したが、機工士ギルドの修行も控えている様子だったので、そちらへ注力するよう言い含めた。……最悪、凄惨な場面にも遭遇しうるため、彼を連れて行きたくなかった、というのが本音ではあるが。
リムサ・ロミンサでラウバーン局長の行方に加え、ナナモ陛下生存の可能性について情報を得た私達はレヴナンツトールへ向かう。そしてクリスタルブレイブの襲撃から逃れたドマの忍び達の助けを借りて、局長が囚われているハラタリ修練所へと走った。
道すがらユウギリ殿と合流し、折を見て修練所へ突入する。途中、毒霧の罠などの妨害を受けるものの、どうにか切り抜け、魔法障壁に閉じ込められていたラウバーン局長を無事救出することが出来た。……幸い息はあるが、身体はやせ細り、隻腕の切断面の包帯も汚れたまま。体力面・衛生面から見て生きているのが奇跡であるとすら思える状態だ。ひとまず安全な場所へ退避して治療を、と思った矢先。それを阻むようにしてイルベルドが姿を現した。
毒霧で弱った所を奇襲したつもりだったのかもしれないが、以前盛られた毒薬には遠く及ばない。取り巻き数名共々あっさりと返り討ちにすることが出来た。
これ以上の戦闘は分が悪いと踏んだのか、彼は大きく飛びのいて距離を取る。
彼は私の『超える力』が暁の血盟や各国の政権、クリスタルブレイブに”利用された”と述べる。その上で、自分たちアラミゴ人の望郷の念も誰かの思惑に組み込まれ、自由に戦うことも許されない、故にいかなる手段を用いてもアラミゴを取り戻して見せると豪語した。
胸の奥がスン、と冷えていくのを感じつつ、私は静かに反論する。
「私は自らの意思で『暁』の活動に尽力しております。貴方の御心境と同列で論じられるのは非常に心外だ。……目先の力に頼り、民と政を混乱させ、挙句同胞の心身を不必要なまでに痛めつける……その先で果たしてどのような”理想”が達せられるのか、私には理解いたしかねます」
「……ハッ、そうだな。力がある、奪われたことすらないお前に、何も分かるはずがなかろう」
そう言い捨て、目くらましを使って逃走していった。
私は短くため息をついて、ラウバーン局長の応急措置に取り掛かる。
――真新しい青服に汗を滲ませ、私と毎日のように調査の打ち合わせをしていた嘗てのイルベルドの姿を……どこか遠くに感じながら。
その後、私たちはウリエンジェ殿の手引きで『砂の家』へ向かう。地下階段の先の扉を開けると、ウリエンジェ殿に加えてピピン殿とパパジャン殿、そして砂蠍衆のデュララ殿が揃って私達を出迎えた。デュララ殿は短く自己紹介を済ませた後、単刀直入に事実を告げた。――ナナモ陛下は生きておられる、と。
当初テレジ・アデレジがナナモ陛下の毒殺によるクーデターを目論んでいた。しかし独自の情報網で計画を感知したロロリトは、彼を排除するために薬のすり替えを行ったほか祝賀会場でラウバーンが彼を殺害するよう仕向けたという。
ロロリトの真意とナナモ陛下生存を伝えたデュララ殿は、混乱の収束させるための施策をいくつか提案するが、ラウバーン局長は苦々しい表情のまま沈黙する。――それもそのはずだ。彼女が提案したのはロロリトを処断せず、政権の復旧を図る方針だったのだから。我々が受けた一連の被害を考えれば、彼の怒りはもっともである。……が、現状を考えればそれが最適解であるし、彼女がウルダハの政権を本気で立て直そうとしていることも良く分かる。しばらく沈黙が続いたのち、ウリエンジェ殿が「立ち話をするのも疲れるでしょうから」とウルダハ関係者を奥の間へ誘導していった。
ここから先はウルダハの内政会議であり、積極的に同席すべきではないだろう。そう判断し、私とアルフィノ殿は一旦砂の家を後にして解散する運びとなった。
私は一先ずミルラへ一報を入れ、所属ギルドに無事を告げるために最低限あいさつ回りをしてから帰ることにする。
何せ、クルザスへ落ち延びてから三国の組織とは一切連絡を取れない状況であったため、相当心配をかけていることだろう。質問攻めに対応する時間を人数分計算するに、少なくとも今日中にイシュガルドへ戻るのは難しそうだ。
ミルラはというと、機工士ギルドで順調に修行を重ねているようだ。……どうも、指南役が失踪したり、伝統的な戦法を重視する派閥との争いがあったり、大小のトラブルに見舞われているようだが、ギルドで組織立って対応しているようなので、しばらくは見守ることにしよう。
私は手持ちの水を呷り、グリダニアへの転移魔法を唱えた。