控えめオスラと花のうさぎ~蒼天編3

ミルラの回想

――クルザス西部高地をずっと西へ。荷物を載せた黒チョコボに代わる代わる乗りながら、ボク達は進んでいく。
ウイキョーにはエオルゼア三国で活動していた相棒のチョコボがいたんだけど、祝賀会の一件で怪我を負って、完治するには少し時間がかかるみたい。
彼は『大丈夫、走れる!』と言いたげに高らかに鳴いていたけれど、ムリは禁物ってことで今はフォルタン家に預かって貰っていた。
だから、今度の旅のお供をするのはオルシュファンから送られた大型の黒チョコボ。気候にも合っていて、大荷物を背負っても涼しい顔で歩き続けてくれる。

やがて頬に吹き付ける寒風は徐々に穏やかになり、茶色い地表が見えて、土の匂いが香り始める。
クルザスから黒衣森へ向かう時みたいに、草木の丈が徐々に高くなっていくけれど、植物の種類はかなり違っていて、向こう程の密度はない。
魔物の気配も遠のき、少しうつらうつらして、目を覚ますと、湿った空気が頬を撫でる。

――ふと顔を上げ、ボクはわぁっと歓声を上げた。見たことも無い巨大な木々が、空を覆うように林立していたのだ。
あれは、確か『七天樹』。シャーレアンに居た頃本で見たことはあったけれど、本当に存在したんだ!イメージしていたものの何倍も壮大で、生き生きしていて。ボクは目を輝かせる。
ウイキョーも「あれが……天然の樹木なのですね」と感心したように息を吐き、辺りを見渡しながら歩いていた。

ここは『チョコボの森』と呼ばれる場所で、その名の通り野生の動物や魔物に混ざって、チョコボが歩き回っている。ここ一帯の森は空を縄張りにするドラゴン族からは地表が見えづらく、チョコボとドラゴン族の共存が成り立っているのだと、イゼルは教えてくれた。

彼女に案内されたボク達は、休息と補給のために、道中の集落・テイルフェザーへと立ち寄った。
 こんな所に人が住んでいるのか、と驚くアルフィノに、イゼルは微笑み、ここにはチョコボ捕獲や猟を生業にする猟師たちが暮らしているのだと説明する。
 イゼルが以前お世話になっていたという集落の長、マルスシャンさんを訪ね、宿泊場所の融通をお願いすると、彼は快く応じてくれた。
 けれど、チョコボの森を出るのはおススメしない、とも言っていた。どうも近頃、ドラゴン族が殺気立っており、同時に土着の獣人である『グナース族』が人間やドラゴン族を攻撃するようになったらしい。

彼の忠告を聴きつつも、ここで怯んで足を止めるわけにもいかない。休息を取った後、危険を承知で西方へ進むと、甲虫のような姿をした獣人が現れる――グナース族だ。
 対話を試みようとしたけれど、彼らはまるで機械のようにこちらを追尾して繰り返し武器を振るってくる。だから、本当に残念だけれど、斃して眠って貰うしかなかった。

ここまで来ると七天樹もまばらで、代わりにドラゴン族が此方を警戒しながら飛翔するのが見える。
 そして木々の間には石造りの大きくて立派な建造物が蔦に覆われながらも静かに、確かに佇んでいた。
 エスティニアンは疑っていたけれど、確かにイゼルの言う通り、竜とヒトが本当に一緒に暮らしていたのではないか。そう思う位、どこか生活感のある空間だった。

進んでゆくと巨大な塔『不浄の三塔』が見えてくる。途中でも見かけていた真っ白な建造物が集中していて、本当に街の建物みたい。
 実際に、所々でドラゴン族が羽を休めているのが見えた。この天井の高さなら、ドラゴンさんも頭を天井にぶつけないで過ごせるかもしれないなぁ。そんなことを考えながら、イゼルに続く。

塔のたもとにたどり着くと、イゼルが上を見上げて『ヴィゾーヴニル』と口にした。
 どうやらドラゴン族の名前だったらしく、真っ白で大柄なドラゴンが1体、土煙を上げながら降り立つ。イゼルの呼びかけで姿を現した白き竜・ヴィゾーヴニルは聖竜フレースフェルグの眷属で、どうやらイゼルとも知り合いのようだ。

彼女は事情と望みを端的に告げた。けれど、嘗て人がニーズヘッグから奪い取ったとされる『竜の眼』をエスティニアンが所持していたため、当然ドラゴン族としての心証は悪い。不信感を募らせるヴィゾーヴニルにエスティニアンは挑発するような態度を示し、怒りと不安のココロがいっとき、周囲を満たす。幸いウイキョーとアルフィノが双方を宥め、どうにか対話を再開することができた。

気を取り直して、霊峰・ソームアルへの案内をお願いしたけれど、今はグナース族が呼び出した蛮神の脅威から守るため、ヴィゾーヴニル自身がこの場を離れられないのだという。 一方で、状況が変われば対応して貰えそうな口ぶりでもあった。
それならば話は早い。ウイキョーとイゼルは頷き合い、蛮神討伐を条件に助力をお願いして、ヴィゾーヴニルは半信半疑ながらも承諾してくれた。

こうしてボク達はテイルフェザーに戻りマルスシャンさんの伝手で同じグナース族ながら蛮神否定派の『分かたれし者たち』と接触。
ラーヴァナを召喚した『繋がりし者たち』は、ネットワークにアクセス出来る端末のように、各々が見聞きしたものを共有している。だから、1人に見つかるとたちまち全員が知ることとなるらしい。結論として、闇討ちは不可能と判断して、わざと捕まり生贄として差し出されたところで宣戦布告することになった。
 危ない賭けにはなるけれど、ここで躊躇っていたら、先には進めない。そして、相手が蛮神だから、光の加護を持つウイキョーとボク、そしてイゼルの3人で退治することになった。
 ……本当はウイキョーの光の加護の効果を分け与えることで、特別な能力の無い人とも一緒に戦えていたんだけど……残念ながら『竜の爪』で彼の能力が制限されているので、その方法は使えない。話の流れでこの辺りのことを触れられたらどうしようと内心ドキドキしていたけれど、エスティニアンが先にアルフィノと外で待っていると言い出してくれたので、どうにか助かった。

巨大な蟻塚のような部族居住地についたボクたちは、わざと見える位置から侵入して、めちゃめちゃに暴れまわる。すると、たちまちたくさんのグナースが乾いた音を立てて集まってきた。折角だからと思って可愛い服を投影させた石も撃ち込んでみたけれど、『繋がりし者たち』はみんな無反応だった――しょんぼり。
頃合いをみて銃を納め「ハイ!コーサンです!」と両手を挙げてぴょんぴょんとジャンプすると、グナースたちはボク達を囲んで洞窟の奥に連行した。

連れていかれた住処の奥の大広間でグナースたちが祈ると、甲虫のような鎧で全身を包んだ多腕の武人が姿を現した。蛮神・ラーヴァナだ。
 蛮神を呼び出した彼らの願いは種族の繁栄。ドラゴン族と人間の戦争により両者が弱ったのをチャンスだと考えて、領土拡大に打って出ようというのが『つながりし者たち』の考えらしい。……きっと、彼らも長い間苦労を重ねた上で願っているのだろう。けれど、これもきっとアシエンに唆されてのことだろうし、エーテルの浪費や周囲への被害を考えても見過ごしては置けない。

すると、いつの間にかイゼルが1人で向かおうとしていたので、ボクはええ~!?と声を上げ、抗議した。
「折角3人で来たんだから、一緒に戦おうよ〜!」
「い、いや、しかしだな……」
「ね、ウイキョーもそう思うよね!」
 笑顔で振り返ったボクにウイキョーも戸惑いながら頷き、
「安心して下さい。私どもならエーテル照射の悪影響もありませんので」とほほ笑む。イゼルはそういうことなら……と同意してくれた。

ラーヴァナ!作戦会議してからでいい!?と声を張って尋ねるとラーヴァナは「よかろう」と腕組みをして座り、ボク達は輪になって作戦を立て始めた。
 イゼルは少し考え、蛮神討伐の経験に長けるウイキョーに割振りを託す。それを受けたウイキョーはイゼルにシヴァを降ろして戦うことを確認した上で、護り手の位置取りを任せた。以前と違ってクリスタルの備蓄もない為、一対一は荷が重い。しかし蛮神の体格であれば守り手の役割もこなしやすいだろうと。ウイキョー自身は癒し手とボク達の魔力補強に回るつもりらしい。
「そうなると、あなたは機工銃で遊撃に回って頂くことになりますが、出来ますか?」
「わかった!やってみる!」
 よろしい、とほほ笑み、ウイキョーはイゼルと頷き合い、ラーヴァナへ改めて宣戦布告をした。

導かれた決闘の場所は不安定な柵に囲まれた高所。立ち上がり、武器を構えるラーヴァナの前にイゼルが向き合い、その体が光に包まれた。
 シヴァが氷の剣を手にラーヴァナへ斬りかかり、戦いが始まる。追って、ウイキョーの継続回復魔法が彼女を包んだ。
 イゼルがラーヴァナを引きつけ、真っ向から対峙するけれど、前戦った時に比べて魔法や剣戟の勢いが無い。やはりエネルギー源のクリスタルがほぼ無いため、力が出せないみたい。
 けれどボク達は1人じゃない!押し負けそうになった所をウイキョーが攻守の魔法でフォローをする。ボクは背後から機工銃で外殻の隙間を狙いながら痛手を与えた。

ラーヴァナは強力な魔法で広範囲を焼くパワフルな戦法を取りつつ、自分の周囲を反射壁で覆ったりとトリッキーな動きも見せる。
 対してウイキョーはエーテルの流れを読みながら的確に指示を飛ばし、こちらの被害を最小限におさえる。
 ならば、とラーヴァナは闘技場に沢山の蝶々の幻影を放って力を溜め始めた。
 経験上、あれを放置したら次の攻撃の被害が大変なことになりそう!そう思い、僕は蝶々を大急ぎで撃ち落として回る。やがて、大技の前兆が見え、ウイキョーが展開した癒しの陣の中に駆け込んで体を伏せる。
「心して覚悟せよ――武の神髄!チャンドラハース!」
 強力なエーテル波動で宙にはね上げられ、直後、全身を切り裂かれる痛みが走った。けれどもすぐにウイキョーの治癒魔法が作用し、どうにか立ち上がる。
 イゼルは早々に体制を立て直し、ラーヴァナを引きつけていた。ボクもすぐに続かなきゃ!と駆けつけると、不意に衝撃波で後ろに吹き飛ばされる。

しまった!と思った瞬間には足を踏み外していた。ウイキョーが大声でボクを呼ぶ声を遠くに聞きながらギュッと目をつぶった、そのとき。
 強い冷気とともにボクの背後に氷の足場と壁が生成される。――イゼルが助けてくれたんだ!

バクバクする心臓を抑えながら、ボクは立ち上がり、今度は立ち位置に気を付けながら銃を構え直す。気づけばラーヴァナのエーテルに揺らぎが見え始めていた。もうひといき!
 ボクは頃合いを見計らって空中に機工兵器を展開し、渾身の一撃を放つ!。
 ラーヴァナは膝をつき、悔しそうな声を上げながらもボク達の健闘を称え、エーテルに還っていった。

 ウイキョーが心配そうにボクに駆け寄り、フォローが漏れたことを謝りながら傷の具合を確認する。ボクは「気にしないで。イゼルのお陰で大丈夫だったよ!」と言って、彼女の方を振り返る。ウイキョーもありがとう、本当に助かりました、とお辞儀をしていた。
 ボクは戸惑った様子のイゼルとハイタッチをしようと駆け寄るけれど、シヴァの背丈が大きくて、ララフェルの身体で背伸びをしても届かない。イゼルは自分の掌とボクを見比べたあと、降神状態を解いてから、しゃがみ、ハイタッチに応じてくれた。

 ボクがえへへ、と笑うと、イゼルも微かにほほ笑みを返したのだった。