控えめオスラと花のうさぎ~蒼天編3

ウイキョウの日記

ラーヴァナが討伐され、『繋がりし者たち』は散り散りに去っていく。
 イゼルとミルラの傷を癒し、周囲を警戒しながら出口へ向かっていると、不意に助けを呼ぶ声が聞こえた。
 我々の他にも囚われたものがいたのか……と駆けつけると、壮年の男性が拘束された状態で見つかったため、縄をほどき、共に塚を脱出する。
 幸い、彼……考古学者のシルヴィエル殿の状態は比較的良好だったため、道すがらいきさつを訪ねると、どうやら遺跡の発掘調査に終始するあまりグナース族の領地へ深入りしてしまったのだという。

彼を連れて外へ出ると、彼の部下と、そして何故か見知った二人組を見かける。――サンソン大牙士とギドゥロ殿である。
 彼らとは先日グリダニアへ戻った際に対面済であり、私は吟遊詩人の力を生かした新部隊の設立について相談を受けていた。部隊設立の立案者は双蛇党のサンソン大牙士であり、神勇隊のギドゥロ殿はその戦歌の腕を見込まれて協力者として抜擢された。争いを終結させると謳われる『終焉の戦歌』を捜索し、その成果をグランドカンパニーへ持ち帰るのが彼らの任務である。ウルダハの一件が下火になるまで協力出来ずにいたのだが、まさかこんな場所で巡り合うことになろうとは。

彼らはイシュガルドや西部高地で互いの長所を生かしながら情報収集を行い、考古学者であるシルヴィエル殿に接触しようとしていた。その彼がグナース族に囚われていると聞いて駆けつけてきたという。偶然ながらも彼らを助ける恰好になり、サンソン大牙士は深く感謝し、ギドゥロ殿は「粋な行動には粋な展開がついてくるもんだな!」機嫌よく弦をかき鳴らして見せた。
生真面目なサンソン大牙士に対し、ギドゥロ殿はどことなく芸術家気質の実力派。水と油のような二人が果たしでまともに任務を進められているのか内心心配していたが、どうにか前には進んでいるようだ。
 ――と、思った端から言い争いが始まるので、まだまだ安心出来なさそうではあるが……。

その後、テンパード化を避けるために別行動を取っていたアルフィノ殿・エスティニアン殿とも合流し、私達は纏まってテイルフェザーへ戻る。
すると今度は、狩人数人が集落の中心に集まって何やら深刻そうに話をしているのが見えた。
報告や情報交換は他の皆に任せ、話を訊くと、どうやら集落近くの林道に熊が数体たむろしていて食料の採集に支障が出ているのだという。
 日はまだ高く、数体の狩り程度であれば対応できそうだ。そう考えた私は駆除を引き受ける。すると、意外にもエスティニアン殿も同行を申し出て下さった。

2人で目的の場所へ到着すると、なるほど、熊が2体ずつ固まってうろうろしていた。私は少し考え、やや遠目にいる2体を自分が、手前にいる2体をエスティニアン殿が狩ることを提案した。彼は軽く頷くと、大きく跳躍して七天樹の上に降り立つ。私は静かに2本の矢を番えて弓を引き絞り、放つ。首尾よく命中し、2体の熊は体を震わせて地に伏した。
 それに気づいたもう2体がその場から逃げ出そうとしたところにエスティニアン殿が急降下する。血を吹き出して倒れ伏す1体を見て、もう1体は激昂して爪を振りかぶるが、次の瞬間彼の槍が急所を貫き、一撃で仕留められた。
 彼が手を上げて合図をしたのが見え、私も合流して自分が仕留めた熊2体を回収して担ぐ。そして近くの木に吊るして血抜きの作業を始めた。
 途中で様子を見に来た狩人が「あんたら2人で全部仕留めたってのか!?」目を丸くしつつも礼を言い、運搬用具を持ってきて頂けることになった。

二人と村人複数人で熊肉4体分を集落へ持ち帰り、道具と場所を借りて解体作業を始める。
 一度準備してから合流する、といって建物の方へ消えて行ったエスティニアン殿に先んじてナイフを入れ始める。すると。
「ほう。随分と手際が良いな」
 背後から声を掛けられ、振り返ると長髪の端正な顔つきのエレゼン男性が此方を見ていた。
 一瞬誰か分からず、目をぱちぱちさせていると「どうした?」と眉を顰める――その声で、ようやく彼がエスティニアン殿であることに気づいた。解体作業のために軽装に着替えてきたようだ。
 ともかく、革の採取と解体を手分けして始める。血抜きの間に研いだナイフを手に取り、肉と皮を剝がしていく。流石寒冷地の獣というべきか。脂の厚みがとてつもない。
「ナイフ1本で剥いでいくとは……。お前、どこぞの牧場の出身か?」
「牧場とは違いますが……。私は東方の遊牧民社会で育ったので、この手の作業には覚えがあります」
「なるほど。道理で。狩りの時も極力皮を傷めないように仕留めていた。指示も的確で無駄が無い。只者ではないと思っていたが、そういうことか」
 そう納得しつつ、彼は自分のナイフを取り出すと、皮をはいだ肉から内臓を取り出し始めた。確かにやり方は違うが、彼も相当手慣れているのが見てとれる。

――ぽつり、ぽつりと互いの故郷や狩りの方法、肉の保存、食べ方など話に花をさかせつつ、作業を進める。会話の端々から察するに、彼はどうやら牧羊を営む家の生まれの様だ。なので何かと共通項も多く、思いのほか話も弾んでいた。
「幼少の折は血なまぐさい光景に尻込みしたものですが、部族総出の作業を手伝っているうちに、不思議と慣れるもので……」
「俺の所は家族4人しかいなかったからな。年に一度、冬に備えて大切な羊を肉にする日。問答無用で手伝わされたものだ。一日中の作業ですっかり疲れ果てて。……だが、その晩の食卓は山のような肉料理が並んで、弟と一緒に夢中で頬張ったものさ」
 本当に、懐かしいな。そう呟いたきり、彼はまた黙って手を動かし始めた。私も手元に視線を戻してナイフを動かす。
 彼の家族はニーズヘッグに殺された。日々の生活も、温もりも。一瞬にして焼かれ、奪われたのだ。
 皇都で唐突に同行を希望したり、竜に対して過剰な敵意を見せたりと、一連の彼の態度に内心閉口していたが……彼の生い立ちを思えば、無理もない話だ。
 ――もっとも、此方から変に同情の意を口にするのも無礼に思えるので、ここは彼の話を聞くに留める。
 が、どこか掴みどころのないと思っていた彼の内心を、少しだけ理解出来たような気もした。

こうして解体は滞りなく完了。使えそうな部位の意向の処理を村人に渡すと、報酬と礼を兼ねて生肉や毛皮と干し肉・保存食が返ってきた。今後の長旅を思えば大変ありがたい。
「そういえば退けた部位を変な窯にかけていたが、あれはどうするんだ?」
「ああ、あれは自分用です。解毒や脱臭の処理を施せば、おおむね食べられますし」
「野生の魔物の、あの部位をか!?……奇特な奴もいたものだな」
 そう言って肩を竦めると、彼は大きく伸びをし、歩を進めた。
「さあ、行こうぜ、相棒。あの坊ちゃんが大量の内臓に目を回しているかもしれんからな」
「え?……ああ、そうですね」
 突然の呼称に目を白黒させながら、私は彼に続いた。――訂正。彼の距離感にはまだ理解が及ばないかもしれない。
 慌ただしい一日が終わり、空は茜色に染まり始めていた。

心地よい肉の香りを辿りつつ中心部へ戻ると、村の狩人たちがほぼ総出で熊肉の処理を進めていた。日持ちしない部位の処理も兼ね、鍋で会食をしよう、とマルスシャン殿が声を掛けて回ったようだ。
やがて、焚火を囲み、猟師たちの宴席が始まった。シンプルな味付けのスープと肉が戦いと狩りで疲弊した肉体に良く沁みる。

端の焚火では熊の脂身だけを集めた鍋が火にかけられ、精製作業が始まっていた。
 ミルラが油の量に驚きながら興味深そうに見つめていたので、私が簡単に効能や用途を説明する。
 熊の分厚い皮下脂肪は繰り返し火にかけて精製し、真っ白なラード状に加工する。その作業は大変手間がかかるものの、出来上がった熊油は切り傷や火傷にも有効であり、香料を混ぜて華やかな香りを愉しむこともできる。頂いた命を、惠みを無駄なく活用する知恵である。と。
 説明を聴いたミルラは「すごい!ボクも香油を作ってみたいなぁ」と目を輝かせ、話を聴いていたマルスシャン殿から後で備蓄の熊油を分けて頂けることになった。

物資の面でも、ミルラの教育面でも思わぬ収穫を得ることが出来た。そう思った矢先。
突然、大きな物音が聞こえ、見れば男性が一人、真っ赤な顔で昏倒していた。駆けつけて診れば、どうやら強い酒を一気に呷ったことで強い酩酊状態にあるようだ。幸い重症化の心配は無さそうなので、水を飲ませ、仲間が寝所へ連れて行くことになった。
 聞けば、彼は元々騎士として竜との闘いに臨んでいたが、先の防衛戦で負傷し、職を辞した。幸いチョコボ狩りを担える程度の体力はあり、集落の仲間との関係も良好だが、時折、殉職した戦友のことを思い出し、やけ酒を呷ることがあるようだ。
「逃げ遅れたお仲間が目の前であのヴィシャップの炎で焼け死ぬ様を直視しちまったらしくてな……」
「防衛戦自体は国の勝利って扱いだが、あの戦いで散った者も多い。……まったく、やりきれない話さ」
「……」
 倒れた男性が運ばれていくのを見送っていると、イゼルが無言で食器を置いて席を立つ様子が視界の端に映った。

――イシュガルド防衛戦の引き金となった、皇都の防衛機構の一部破壊。それを担ったのは、確か――。
 彼女の概ねの心境を察しつつ、私は黙して席へ戻る。
 マルスシャン殿は俯いて煙草に火をつけ、ミルラは、彼女の去った方向をずっと、悲し気に見つめていた。