控えめオスラと花のうさぎ~蒼天編1

ウイキョウの日記

フォルタン家の執事殿に促され、敷地内へ足を踏み入れる。開いた扉の先には、赤絨毯で彩られた部屋が広がっていた。
玄関扉が閉められると冷たい空気が遮られ、寒風で冷え切った体がじんわりと温まっていく。

応接間に通された私達を出迎えたのは、四大名家であるフォルタン家の伯爵と二人の子息たちであった。

 御当主のエドモン・ド・フォルタン伯爵。
 嫡男のアルトアレール・ド・フォルタン卿。
 次男のエマネラン・ド・フォルタン卿。

彼らは我々『暁』の訪問に歓迎の意を示し、改めて客人として出迎える意志を示して下さった。外様の、しかも汚名を着せられた私達を迎い入れることを心配するアルフィノ殿であったが、どうやら『難局にあればこそ外の勢力と手を取り合うべき』というのがフォルタン家のモットーであるらしい。保守的な考えを持つ勢力からは敵視されるだろうが、今後の我々の振舞で誤解を解いてゆけばよい……と、フォルタン伯爵はお考えのようだ。

一先ずはイシュガルドの都市内を見て回ってはいかがか、との伯爵の提案に私達は同意した。異国の地へ降りたからには、各種施設やしきたり、治安などの情報を確保すべきであろう。
……最もミルラは好奇心の方が先に立つのか、あの建物を見たい、マーケットの総菜を食べてみたい、と心躍らせていた。

街の散策に先立ち、フォルタン家の執事殿から我々に客人証書が手渡される。しかし、ミルラの番になったとき、彼は自分と他の三人の証書を見比べ、首をかしげる。
「何だか、ボクの名前、みんなよりも短い?」
「おや、そう言われてみれば。……ミルラ、君のファミリーネームを訊いたことがなかったね」
「ふぁみりー、ねーむ?」
「ミ、ミルラさん……今までそんなことも分からないで書類整理とかしてたんでっすか……」
 タタル殿が頭を抱え始める。私は『教え損ねた自分も悪かった』と謝りながら、ミルラに名前にまつわるしきたりを教えた。

アルフィノ・ルヴェユール、タタル・タル、ウイキョウ・ユキノシタ。
 ――このエオルゼアに住まう者の多くが、自分の名の他に所謂『姓』や『字』といったものを持ち、公的な場や身分証明の際にはそれらを含めたフルネームを名乗ることが殆どである。その由来や構成順序は、種族や地域による差が大きく一概には語れないものの、自らの身分や出身家・部族・集落に由来するケースが多い。
「しかし、貴方の場合は魔法の影響で出自を名乗れない様子。であれば、タタル殿のようにララフェル族式の字を名乗るか、私のように独自の姓を考えた方が良いかもしれませんね」
「うーん……そっか。考えておくよ!」
 彼は合点したように頷き、証書を大切に仕舞うのであった。

その後、私たちは一度各自居室へ荷物を置いてから連れ立って出発することになった。
 屋敷を出る際、タタル殿は、私のローブに取り付けるためのフードを渡して下さった。キャンプ・ドラゴンヘッドで滞在していた時に依頼したものだが、彼女の仕事の速さには頭が下がる。「窮屈じゃないでっすか?」と心配そうに見つめる彼女に、私は笑顔で問題ないと伝えた。実際に被れば、角もしっかり覆われ、布紐で調整も利く良品である。
 ――あまり周囲には告げていないが、先日のイシュガルド防衛戦や、先ほど市街地を通過した時に、時折『嫌悪』の視線を感じていた。この国の民にとって、この角と尾はドラゴン族のそれを彷彿とさせるらしく、一昔前までは流れ着いたアウラ族が酷い差別を受けることもあったようだ。
 フォルタン家の客人である以上、そこまでの事にはならないだろうが、今は匿われた身である以上国民感情に配慮して行動するのが筋というもの。戦闘時などどうしても支障となる時以外は、隠しておくのが互いの為であろう。

こうして準備を終え、私たちは街へと繰り出した。フォルタン家の執事殿の案内で主要な施設を順に巡ってゆく。教皇庁前のグランド・ホプロンを訪れた際、ミルラが見上げすぎて倒れそうになっていたので、彼を肩に乗せると、視界が開けたと歓声を上げる。以降は彼を街の各所で肩車して回ることになった。タタル殿には「甘やかしすぎでっす!」と窘められてしまったが、ヴィエラ族からの変化の大きさを考えるとどうしても手を貸したくなってしまうのだ。
 名所を巡り、マーケットの主へ挨拶しつつ露店のスープ料理に舌鼓をうち、雲霧街の大衆酒場『忘れられた騎士亭』にも伺い軽く話を聴いて回る。その中で、概ね、この国の現状を窺い知ることが出来た。
 ドラゴン族との闘いを伴う、千年もの歴史と誇り。その裏に垣間見える貧富の差。――そして……何とも言えない違和感を感じながら、見学は一区切りとなる。
 案内の執事殿は酒場の空気に居心地の悪さを感じ、早々に屋敷に戻るよう提案したが、タタル殿は情報収集のために一人酒場へ残ると言い出した。この場であれば国外の情報を収集しやすい。そのためには自分一人の方が何かと身軽だという。……正直なところ、女性一人を残していくのはかなりの不安があるが、幸い酒場のマスターのジブリオン殿が責任をもって見張ると進言したので、一先ずは彼の言葉とタタル殿の立ち回りを信用することにした。

そして最後にミルラの希望により、対竜兵器開発を担う『スカイスチール機工房』を訪問した。この施設は銃器を用いて戦う『機工士』のギルドも兼ねており、四大名家アインハルト家の子息・ステファニヴィアン卿がマスターを務めているようだ。彼と質疑応答をするうちにミルラはかなり気に入られ、早々にギルドへの入門を認められたらしい。兵装についてかなり細かい説明が始まってしまったので彼に帰り際タタル殿の様子を見てくるように言いつけ、一度3人だけで屋敷へと戻る。
 屋敷の戸を潜ると、人数分の茶が出され、今後の話し合いが始まった。
 フォルタン伯爵はまず、アルフィノ殿には「知」を借りたいと述べ、物資調達のためのパイプ役を依頼し、アルフィノ殿も二つ返事で了承する。
 一方で私とミルラには他家との交流と『暁』の地位確立のために、アルトアレール卿とエマネラン卿の職務の補佐を提案された。
 関係する貴族家や危険度・優先度を鑑み、私がアルトアレール卿の任務を承るべきであろう。……そう判断した私はミルラにはリンクパールで連絡してから伯爵へ返答をし、休憩の後にアルトアレール卿とともに任務の地、クルザス西部高地へ向かう運びとなった。

――雪がちらつく中、飛行に特化した黒チョコボに乗り、クルザス西部高地の寒村ファルコンネストへ降り立つ。中央高地同様、雪深い極寒の地であるが、第七霊災以前は緑豊かな地域であったとアルトアレール卿は語っていた。

ファルコンネストに到着すると、指揮官のレッドワルド卿が我々を出迎える。以前、デュランデル家の管轄地にて異端者騒ぎの解決に奔走したことはドリユモン卿を通じて伝わっていたらしい。そのためか、今回は騎士達の対応も好意的で、思いのほかスムーズに仕事を進めることが出来た。

そして、今回の任務の内容も、またもや異端者絡みであった。どうやら寒冷化の影響で放棄された旧村の建物が彼らの根城として占拠されているのだという。
 ついては、周辺施設の再建作業の補助をしつつ、異端者勢力の捜索活動を併せて進める……というのが今回のアルトアレール卿に課せられた任務であった。フォルタン家として、客人の信用を確保しデュランデル家に恩を売るという狙いもあるのだろう。

寒風が吹きつける中、材料の調達や食料の配達に当たっていると、哨戒部隊が行方不明になったとの一報が入り、私と卿は本格的に異端者の捜索を始めた。土地勘のある彼の指示に従って進んでゆくと、負傷した哨戒部隊の騎兵を発見する。
 治癒術で応急措置を癒すが、消耗が激しい騎兵は一度ファルコンネストへ送り届けねばならない。……一方で今なら襲撃した異端者の足跡を追って拠点を突き止めることも出来る。そのような状況下に置かれる中、アルトアレール卿は少し思案した後、私にアジトの捜索を託し、私も二つ返事でそれを了承した。――荒事となれば自分が適任であろう。

彼は負傷者を連れ、ファルコンネストへと戻り、私は単身で廃屋敷の地下へと向かう。
 ――すると思いがけず『氷の巫女』イゼルと遭遇した。戦闘を覚悟して杖を構えたとき、ミドガルズオルムの幻体が現れ語り掛ける。どうやらイゼルとかの竜は面識があり、彼女自身もまた『超える力』を持つ者であるようだ。彼女は戸惑いながらも臨戦態勢を解いたので私も武器を納める。軽く周囲を見渡したが、異端者はここに来るまでのしているため、盗み聞きされることも無さそうだ。

彼女は語る。自分はかつて西部高地で暮らしていたが、霊災によって故郷と家族を失いドラゴン族の領域であるドラヴァニアへ逃げ延び、聖竜フレースヴェルグと邂逅した。そこで超える力の過去視により、竜詩戦争の『真実』なるものを目撃したのだと。
 ……そして、その出来事を機にイゼルは氷の巫女としての活動を始めた。自らの行いが数多の犠牲を強いる大罪であることを自覚しながらも、なお己の道を突き進むつもりであるようだ。
 最後に報いを受けようとも、必ず融和をもたらして見せる。そう宣言すると、ミドガルズオルムは何も語らず姿を消し、イゼルもその場から静かに立ち去った。

その後、入れ違いで現場へ合流したアルトアレール卿には会話の内容は伏せつつ、イゼルを発見した経緯を伝え、『すんでの所で取り逃した』という体で状況を報告する。続きの調査は増援の騎兵へ一任し、私たちはレッドワルド殿へ報告をしてイシュガルドへ戻ることとなった。報告の折に感謝とねぎらいの言葉を頂けたので、及第点の活躍は出来たようだ。

チョコボの用意を待っている間、アルトアレール卿はいささか神妙な面持ちで私に話しかけてきた。……どうやら、任務の折、敵陣地への潜入を任せきりにしたことを負い目に感じていたらしい。私としては、負傷者の誘導も危険を伴うものであり、土地勘のある彼が受け持つことに疑問を感じていなかったので、そのことを伝えると彼はホッと胸を撫でおろす。
 彼は、出会った当初は私達のことを侮っていた、と打ち明け謝罪した。その拒絶感はどうやら彼の腹違いの弟……オルシュファンが私を推挙したことに端を発していたらしい。
 フォルタン伯爵の私生児として誕生したオルシュファンは、伯爵の意向により捨てられず騎士として育てられた。そのことをアルトアレール卿の母君は最後まで認めようとしなかった。アルトアレール卿自身もそのような母の言動に無意識に同調してしまい、結果、推挙された私のことも懐疑的な目で見ていたのだという。

私はつらい過去を想起してまで謝罪して下さったことに恐縮しつつ、オルシュファンとの経緯を語った。
 霊災の直後、グリダニアで燻っていた私を助け、勇気づけてくれたこと。時を経て、暁が窮地に陥る中協力関係を結んだこと。ミルラに剣術の指南をして頂いていること。……そして、戦勝祝賀会の騒動から私達を匿い、失意にあったアルフィノ殿や無料感に苛まれる私へ温かな言葉をくれたこと――。
 額面的な事実は既に情報共有されているであろうと考え、敢えて彼の言動や人柄について重点的に伝える。するとそれが功を奏したのか、アルトアレール卿は「そんなことがあったのか」と少し驚きつつも、最期まで関心を持って話を聞いて下さった。

話し終えて小腹が空いた私は断りを入れて鞄の中の携帯食を一口かじる。興味が湧いたのか、彼はどこで手に入れたかと尋ねてきた。
私はやや生臭さとエグみの残るそれを薬茶で流し込みつつ、手作りであることと、主だった材料を思い出しながら伝える。
――すると、なぜか彼の笑顔が引きつり、口を半開きにしたまま絶句してしまった。

そして彼は私の両肩をがしっと掴むと、
「食事の量が足りなかったなら遠慮なく言ってくれ。客人に相応しい栄養と味を備えた料理を用意しよう。レーションも用立てよう。そうしよう」
 鬼気迫る表情で告げられ、私はぽかんとしつつも礼を述べたのであった。

可及的速やかに美味な食材を⋯と思案するアルトアレール卿を宥めていると、リンクパールが鳴る。

 ……どうやら、『向こう』に赴いていたミルラに何かあったらしい。