控えめオスラと花のうさぎ~新生編1

ウイキョウの日記

今日は、かねてより勧誘されていた『暁の血盟』の本部、砂の家へ向かった。
オルシュファン殿との一件以降、心なしか過ごしやすくなったグリダニアで、私は日々小さな頼まれごとをこなしていたのだが、ここ最近、状況が一変している。
幼少の頃より聞こえてきた『声』が俄かにはっきりと聞き取れるようになったのだ。

――声の主は星の意志『ハイデリン』。
曰く、闇の意志がこのエオルゼアに影を落としている。それを掃う力が必要なのだと。
私は東方出身のいち冒険者。そのような大仰な使命を課されるような器ではない。何かの間違いでは?と告げたが、ハイデリンは答えず、光のクリスタルとともに過大な能力を授けてきた。 付近の場や人物を対象とした過去視、戦闘能力の大幅な増強。…いわば『超える力』と呼ばれるものだ。
 能力の習得に前後して、一応の平穏を保っていたグリダニア周辺にも、イクサル族の襲撃、その裏で暗躍する天使い『アシエン』の出現など、きな臭い事件が連続した。そして街を守るべくそれらの問題を解決していった結果、私は精霊評議会議長のカヌ・エ様直々に他国への親書を託される立場になっていたのだ。
 そのような中、同じような能力を授かった者が集う『暁の血盟』なる組織の存在を知った。シャーレアンの賢人・パパリモ殿とイダ殿に誘われ、私はザナラーンの港町、ベスパーベイへと足を踏み入れたのだった。

街へ到着して間もなく、変わった服装の人物が目についた。
華やかなエプロンドレスに身を包んだヴィエラ族の少年が、虚ろな目をして街中を彷徨っている。
……ザナラーンには常人には理解出来ない娯楽を嗜む豪商もいると聞くが、彼?もそういった類の人物に仕えているのだろうか。
余り関わり合うべきでは無いと思いつつも、このような炎天下の中外套も帽子も被らずにふら付いているのは癒し手の端くれとして見過ごせない。 私が近づいて声をかけると、少年は緩慢な動作でこちらを振り返り、青緑の目を大きく見開いた。
その顔つきは、好事家の愛人や娼館勤めの人間とはとても思えない程純朴で、透き通った気配すら感じる。
そして、彼が口を開いた瞬間、俄かに頭痛のような衝撃が頭の中を駆け抜け、『声』が響いてきた。

こんにちは。はじめまして。
 ここにくるの、はじめてです。

てあしをさずかり、ここまで、きました
 かんかくをさずかり、あなたのこえをきいています
 だから、どうか。ぼくと、ともに……

『超える力』の影響が治まるのを待ち、私は頭を軽く振って彼に肩を貸した。
外目からみても異常な汗で意識にも障害が出ている。一刻も早く彼を涼しい場所へ避難させなければならないだろう。
そのとき、彼は何処か縋るような目で私をジッと見つめてきた。
今の言葉への返答を求めているのだろう。私は少し思案し、『彼を労う』言葉をかけた。
とっさのことだったので、どんな言葉を選んだのかは覚えていない。
そもそも彼がここまで必死に私を探している理由にも、全く覚えがない。

――だがこの子だけは。何があっても導かなければ。私はそう確信していた。

少年の肩を支えながら『砂の家』の前まで来たところで、玄関扉が開き、ララフェル族の女性―タタル殿が慌てた様子で飛び出してきた。どうやら、この少年は最初に砂の家を訪れていたものの、いつの間にか姿を消してしまっていたらしい。
 汗が滴る服を換え、塩と砂糖を混ぜた冷たい水を少しずつ飲ませ、休ませる。
場合によっては近隣の医者へ診せるべきとも考えたが、彼の体調は信じられない程の速さで回復し、 数十分後には正常に会話が出来るようになっていた。 そしてミルラと名乗った少年は開口一番、私のリテイナーになりたいと申し出てきた。
知らないことは沢山あるけれど、沢山勉強して役に立てるようになりたいのだと。
――暁の血盟に加入すれば、専属のリテイナーを雇用できるという話は、パパリモ殿から前もって説明は受けている。そして、彼らの人柄を見るに信頼できる組織だとも思っていたので、加入すること自体は概ね決心がついていた。
私は真剣に見つめる彼の瞳を見、ゆっくりと頷く。
「いいでしょう。貴方がそう望むのであれば」
「ええええ!?いいんでっすか?」
 私の答えにタタル殿が丸い目を見開いて驚く。
「おや、ここで私が決めてよい話ではありませんでしたか?」
「え!?いや、そういうワケでは無く……まぁウイキョウさんが良いならいいでっすけど……」
 彼女の言いたいことは何となくわかる。彼は…ミルラは、お世辞にも世慣れしているようには見えない。資産管理の仕事も一般常識もおそらくほぼ1からの勉強になるだろう。 しかし裏を返せば、おかしな思惑は一切無い、と捉えることも出来る。
ここ最近、私の名が広まったせいか、冒険者ギルドを通さない怪しげな依頼を持ちかけられることも多く、ゆえに傍には信頼できる者を置く必要があると感じていた。その点彼は、性格、熱意ともに信じるに値する。 …そう説明すると、彼女は「なるほど、一理ありまっすね!」と納得してくれた。
まあ……実際のところ、「放っておけない」という気持ちが一番ではあるが。


「では、ミルラ。これからよろしくお願いしますね」
「うん!よろしくね、ウイキョー!!」
 彼は満面の笑みを浮かべ私の両手を握り握手をしてきた。傷一つない白い手。まるで子供の様だ、と内心驚きながらも握手を返す。長命なヴィエラ族は一定の年齢に達すると以降は長年老化が止まると耳にしたことがあるが、これも種族の特徴なのだろうか。

話が落ち着いたところで、私は盟主のミンフィリア殿の執務室へ呼び出された。
 組織への加入契約を正式に済ませると、早速メンバー達との顔合わせが行われる。
盟主のミンフィリア殿、本部執務長のウリエンジェ殿、ザナラーン地方担当のサンクレッド殿。ラノシア地方担当のヤ・シュトラ殿、そして、今やすっかり顔見知りとなった黒衣森担当のパパリモ殿とイダ殿。
 いずれ、知の都シャーレアンで認められた賢人と聞き、自然と背筋が伸びる。組織の目的も国の垣根を越えた蛮神問題の解決が主であるという。一定の成果を出せばしっかり報酬も出るようなので、収入源としても申し分はなさそうだ。――ただ、一つ気がかりなことがある。
「私は幻術士と弓術士のギルドに属しておりますが、近接戦闘は得手ではありません。野党や町周辺の魔物程度ならまだしも、蛮神ともなると1人では、流石に……」
「ああ、それなら心配いらないさ。次の調査では俺も同行するし、お前ほどじゃないが、『超える力』を持つメンバーも何人かいるからな。役割に応じてちゃんと配置させておく」
丁寧に説明するサンクレッド殿に、ミンフィリア殿も大きく頷き、少し申し訳なさそうに笑う。
「援護職の貴方に気を負わせてごめんなさい。けれど、まずは蛮神召喚を未然に防ぐことが大切。今は戦いありきで考えなくても大丈夫よ」
 彼女の言葉に私が頷くと、さっそく次の調査任務へと話題が移っていった。
蛮神イフリートの召喚準備との関連が疑われる誘拐事件の調査が今回の主な目的だ。サンクレッド殿と暁の血盟員数名と手早く打ち合わせを済ませ、その場は解散となった。

大きく伸びをして執務室を出ると、倉庫にミルラとタタル殿の姿が見えた。
声をかければ、どうやら早速リテイナーとしての教育が始まっているらしい。荷物の整理方法から金庫の使い方まで、ひとつひとつ丁寧に教えているようだ。
「お忙しいのにすみません。本当は私が直接教えられれば良いのですが…」
私の言葉にタタル殿はええっ!?と飛び上がりブンブンと首を横に振る。
「いやいやいや!リテイナーは派遣制でっすから冒険者さんに教育責任はありまっせんよ!?本当は自ら学んで仕事を身につけないといけないんでっすが……彼、あまりにもヒジョーシキ過ぎまっすから。厳しーく教育するでっす!」
 そう言ってギッとミルラを睨みつけるが当の本人は目をキラキラ輝かせている。
「うん!いっぱい教えて!!ボク頑張る!!」
 屈託のない反応に思わず項垂れる彼女を労いつつ、私は彼の肩に手を置き目線を合わせる。
「任務で暫く空けますが、彼女の言うことをよく聞くように。貴方の成長を楽しみにしていますよ」
「ウイキョーも気をつけてね。いってらっしゃい!!」
 ええ、行ってきます。そう言って頭を撫でると、ミルラはえへへ~と満面の笑みを浮かべた。


……さて。数日前はこんな呑気に構えていたのかと思うと苦笑いしか出てこない。
結論から言うと、恐れていたことが起こってしまった。
調査中、味方側の造反が原因で私はメンバー複数名とともにアマルジャ族に捕らえられ、最終的に蛮神イフリートと正面きって戦う羽目になってしまったのだ。
――強大な相手を前に、死を覚悟したのは何時以来だろうか。幼少の頃、草原の猟場でマタンガ族に見つかりかけた時以来かも知れない。
エーテル放射を受けてなお正気を保つメンバー数名を顧み、腹を決めた私はとっさに周囲へ陣を展開した。すると、どういうわけかメンバーの身体能力が大幅に強化されたらしく、力と勇気を得た斧術士殿が雄たけびを上げて蛮神へ斬りかかったのを皮切りに、未知の戦いが幕を開けた。
高濃度のエーテルが飛び交う戦いは壮絶を極め、正直戦闘中のことはあまり思い出せない。
確かなのは、テンパード化を逃れた『暁』のメンバー達は誰一人欠くことなく、蛮神イフリートを打ち滅ぼしたということだ。

私は戦友たち、そして後から合流したサンクレッド殿とともに、全身煤だらけで砂の家へ帰還したのだった。

走って出迎えたミルラは私の有様を見て「どうしたの!?クレーターに落ちちゃったの!!?」とアタフタし始める。随分と珍妙なケースを想定しているな、と内心苦笑しつつ、大丈夫ですよ、と笑顔を向ける。
「色々あって……少し疲れただけです」
「そうなんだ!じゃあ、早く元気にならないと!」
 言うが早いか、彼は駆け足で厨房に降り、大きなバスケットを抱えて戻ってきた。中にあるのは…ニンジンだ。
皮も剥かれてなければ葉も付いたままの、生の。 「はいどうぞ!たくさん食べて元気になってね!」
 満面の笑みを向けられた私は思わず「ええと……」と言いよどんだ。
まぁ……食べられないことも無いし、彼としては大真面目に薦めているつもりのようなので、乗ってあげたい気持ちもある。しかし、彼の教育の為にも、きちんと教えてあげるべきだろう。 そう思案し極力彼を傷つけない言葉を選んでいると、彼は「ああッ!?」と耳を揺らし飛び上がった。
「そっか!!こっちではニンジンは生で食べないんだ!!他の食材もいっぱいあって、『リョウリ』をして……ええと、ええとぉ……」
 どうやら故郷の食文化との違いに思い当たったらしい。あわわわ…と口をパクパクさせながらグルグル周囲を走り回り始めたので、思わず私は破顔する。
「では、表の出店で『オレンジジュース』を買って来ていただけますか」
 疲れている時は甘酸っぱい飲み物が良いのです、と補足しながら伝え、硬貨を手渡すと、彼はパッと笑顔になり、分かった、待ってて!!と外へ飛び出して行った。

私は大きく息を吐いてトイレと着替えを済ませる。
更衣室を出ると、待機していたタタル殿に促されて、煤で汚れた装備を渡し、執務室へ向かった。
 先に戻っていたサンクレッド殿が一通りの顛末を報告していたらしく、ミンフィリア殿は、蛮神を打ち倒し生還した私を大いに労い、早々に大きな戦いに巻き込んでしまったことを詫びた。 私が気を負わなくても良いと伝えると、彼女は幾分ホッとした表情を浮かべる。
――確かまだ20歳にも満たない年頃の娘だったか。このような規模の組織を背負っていくのは相当荷が重いことだろう。


「そういえば、さっきミルラが貴方を出迎えたようだったけど……」
「ええ。疲れた私の力になりたいと言ってくれましたよ。今ジュースを買いに出て貰ってます」
 仔細は濁しつつ伝えるも、概ねの状況は察したのか、2人は顔を見合わせ、苦笑いする。
「ごめんなさいね。連絡を受けた時も少し変わった子だとは聞いていたけど……まさかここまでとは」
 ミンフィリア殿曰く、彼はシャーレアン本国にある関連団体『バルデシオン委員会』の伝手でこのエオルゼアへ渡ってきたが、素性は不明。口封じの魔法により本人も故郷や本名は一切口にすることが出来ないのだという。
シャーレアンの国の中枢たる哲学者議会も1枚噛んでいるようだが、こちらも詳細は不明。議会側は彼の滞在を望んでいたらしいが、ミルラ本人がそれを断ったらしい。
「本当かぁ?向こうさん、面倒だからって押し付けようとしたんじゃ……」
「それが、モンティシェーヌ学長自ら熱心に勧誘されたそうよ。けれど『ウイキョーに会うから』と言って聞かなかったのだとか」
「――私の、名前を?」
 唐突に出てきた自分の名前に目を丸くしていると、ミンフィリア殿が頷く。
何か心当たりは無いかと訊かれるが、首を横に振ることしか出来ない。 最近名が売れてきたとはいえ、いち冒険者の名前が遥か北洋に知れ渡り、わざわざ会いに来ることなどあるのだろうか。
「委員会曰く『悪事を企むような人物では無いので面倒を見てやって欲しい』…だとさ。まぁ確かに嘘の一つもつけなさそうだが、それもそれで今後が心配ではあるな」
 もし負担に感じているなら今からでも代わりのリテイナーを斡旋してもいいぜ?と気を回すサンクレッド殿に、私は首を横に振る。
「私とて、最初から世間一般で必要な知識なマナーを身に着けていた訳ではありません。彼に学ぶ意欲がある以上、もう少し見守らせて頂けませんか」
 私がそう告げると2人は快く了承し、それ以上何か言ってくることは無かった。

その後は、無事お使いを終えて帰ってきたミルラからジュースを受け取り、束の間の休息を共にする。
こうして未知の戦いも含めた長い1日が終わったのだった。

大きな戦いに勝利した影響か、翌日以降も慌ただしい日々が続く。 グランドカンパニーへの勧誘を受け、双蛇党への加入を決めた私は、飛空挺墜落騒ぎに巻き込まれつつも、どうにか手続きを済ませた。
すると、入隊式に参列されていたエ・スミ様から声がかかり、度重なる事件でざわつき始めている黒衣森の精霊を鎮める『鎮撫の儀』についての話を持ちかけられた。最初は護衛程度の話だったのだが、現地へ向かう道中、どういう訳か亡きア・トワ様のソウルクリスタルが突如私の目の前に現れたのだ。
 かのクリスタルが宿すのは『白魔道士』の力。かつて魔大戦で使用された禁術である。 三重の幻術皇のひとり、ラヤ・オ様は、私がかつてア・トワ様を追ってグリダニアを訪れた経緯をご存じだったらしく、これもきっと精霊の意志であり運命なのだと言い、私にクリスタルを授けた。
――流石に固辞すべきかと口を開きかけるが、先に異論を呈したもうひとりの幻術皇ア・ルン様がラヤ・オ様にひと睨みで沈黙させられたのを目の当たりにし、私も厳粛に承らざるを得なかった。
高度な術式で一定時間緩やかな治癒効果を発動させる秘術・リジェネに始まり、今後は広範に及ぶ継続回復術は勿論、重傷者を万全に近い状態にまで治療するような魔法まで習得する可能性があるらしい。

本当に、私如きが受け取って良かったのだろうか……とローブの内側で脂汗を滲ませたのも束の間。 鍛錬のため日頃通っていた弓術士ギルドからの情報で、私は高名な弓術士ジェアンテル殿に出会い、またしてもソウルクリスタルを託されることとなった。
――手渡されたのは『吟遊詩人』のソウルクリスタル。こちらは純粋な弓術の上位術というよりも新たな戦術、と言った方が正しいかもしれない。『戦歌』と呼ばれる魔力を込めた歌唱をもって、味方を鼓舞するのだとか。
私の演奏経験はというと、たまに祭りや宴会の席で披露する程度。玄人の芸人には到底及ばないのだが、どうやら技能面はソウルクリスタルに封じられた先人の記憶に補強される仕組みになっているらしい。試しに手に取ってみると、なるほど、不思議と旋律が頭の中に浮かんで来る。今後は弓術士ギルドに代りジェアンテル殿へ師事することになりそうだ。音楽家としての腕よりも、戦場における仲間への想いこそが真の力となりうるのだと、彼は語っていた。

長年、幻術士や弓術士としての腕を磨いてきたが、まさか一晩そこらで高名な禁術・秘術の使い手にまで上り詰めることになるとは。正直自分の身に余るものだが、託された以上、投げ出す訳にはいかない。
――何せ、それに比例して向き合うべき世界の問題も膨らみ続けているのだから。

こうして短期間に目まぐるしく出来事が発生する中、私はエオルゼア三国で執り行われる追悼式典へミルラを連れ出した。各国の主要都市の様子は彼にもよい刺激になるだろう、と考えたためだ。
森都グリダニア、海都リムサ・ロミンサ、砂漠の大都市ウルダハ――。
多民族への対応や民の気質、重視するもの。周辺に領地を広げる『蛮族』達との問題。 本で学ぶことのできる範疇ではあるが、それでも首長の演説や民の反響をその場で見聞きするのは大いに意義があることだからだ。
幸い予想は当たり、各国の特色と抱えている問題について、彼は表情豊かに見聞きし、熱心にメモを取っているようだった。 同席した年若き知識人・アルフィノ殿にも所々補足を入れて貰えたため、大変助かった。隣の妹と思しき少女も含めて、以前グリダニア近辺の移動時にキャリッジに同乗していた覚えがあるので、きっとエオルゼア3国を回っているのだろう。

式典を目にしたことで俄然世の中への興味が募ったミルラは、その後も同行を希望した。
次の仕事の内容は、蛮神・ラムウの召喚が心配される、黒衣の森のシルフ族の動向調査。 各地の証言を集め、やや癖の強い土産物を用意し、独自の挨拶文化に沿う形で交流を試みる。
激務続きだった私にとっては、幾分単調で平穏な内容ではあったが、初めて彼らに接するミルラは、ひとつひとつの出来事に驚いて歓声を上げ、目を輝かせていた。
「ヒトは思った以上に色んな種族がいて大変だね。でも楽しい!!」
 シルフの仮宿で一人一人に踊って回り、汗をにじませる彼に、私は頷き、微笑む。
穏やかな種族と交流出来る機会があってよかった。 『蛮族』と呼ばれ討伐対象として見られることが多いものの、本質的に彼らは悪ではない。蛮神討伐の矢面に立つ必要が無い以上、彼にはあまり先入観を持って欲しくなかったのだ。そういった意味でシルフ族の在り方は非常に良い例だったと思う。

彼の学びのため、もう少し同行させようかとも考えたが、あいにくそうもいかないらしい。 ――長老・フリクシオ殿の捜索のために訪れたトトラクの千獄で、アシエン・ラハブレアと遭遇したのだ。
私は身を隠しながら同行してきたミルラを背に庇い、圧倒的魔力を滲ませる男へ杖を構える。 怯えた様子で顔を覗かせるミルラをラハブレアは一瞥したが、巨大な蜘蛛の魔物を召喚するとその場を立ち去った。
呼び出された大蜘蛛を討伐し、捕らえられていたフリクシオ殿は無事救助出来て、シルフ族の調査もひと段落したため、私たちは親書を渡して双蛇党への報告を済ませ、今回の任務を終えたのであった。