控えめオスラと花のうさぎ~新生編1

ウイキョウの日記

ミルラがすっかり酔いつぶれて眠ってしまった辺りで、宴は順次解散となった。
客室のベッドへ彼を運び、会場の食器類の片付けを手伝おうとしたが、海雄旅団のヴェイスケート殿が、そこまでさせる訳にはいかない、どうか明日に備えて休んでくれ、と固辞してきた。
「しかし……最初会ったときは随分気取った奴だと思ったが、案外やるときゃやるんだな。案外、どこかの裏社会で生きてたんじゃないか?」
「おや、なんのことやら」
 私はわざとらしく肩をすくめる。好色家で有名なゲゲルジュ殿がミルラに貼りついて何だか不審なそぶりを見せていたので、それとなく襟首をつかんで引き離して別席に移動させ、『にこやかに』雑談をしつつ、蒸留酒の原液をお注ぎしただけで、特に特別なことはしていない。ああ、強いて言うならエーテル代謝を抑制する術を軽くかけた位だろうか。きっと翌日の昼頃まで気持ち良くお休み頂けるに違いない。
「クク、良く言うぜ。まあ、英雄殿のうさ耳メイド姿が見られたことだし、あの人の部屋はしっかり鍵をかけて見張っておくとしよう。だからお前も安心して休んでくれ」
「ええ、助かります……投影の一件は、極力お忘れ頂きたい所ですが」
 そう付け加えると、彼は豪快に笑った。例の投影は手持ちのディスペラーで速やかに解除したものの、これはしばらく忘れて貰えそうにもない。戦いが終わったらあの子にはよくよく言い聞かせなければ。
「――傷を負った俺たちにはもうこれくらいのことしか出来ない。だが、どうか今日の宴を力にラノシアに平和を取り戻してほしい。どうか……頼む」
  一転し、真剣な面持ちで手を差し出す彼に私は頷き、握手を交わす。
――託された期待が、肩にのしかかるのを感じ、夜は更けていく。

翌早朝、未だ夢の世界にいるミルラの布団をかけなおし、私は『超える力』を有する暁の血盟員3名とともに、コスタ・デル・ソルを後にした。リオル殿の案内で蛮風エーテライトの場所へたどり着き、現地でヤ・シュトラ殿と合流。彼女の協力で、一足飛びにコボルド族の本拠地へと転移することが出来た。
睡眠魔法を受け拉致される形で対峙した前回と比べれば、各段に体勢は整っている。
突如現れた私たちに彼らは慄き、激怒し、大量のクリスタルを対価に蛮神タイタンを召喚する。
その想いに呼応するように現れたのは岩山のような巨体を誇る神だった。
 戦いは前回か、それ以上に熾烈を極めた。力の強大さもさることながら、戦いの場となった祭場は極めて足場が悪く、ひとたび足を踏み外せば命はないほどの高所である。そのことを理解しているのだろう、タイタンは衝撃波を放って落下死を狙う上に足場も徐々に狭め、こちらの動揺を狙ってくる。
しかし、こちらも前回とは覚悟も技量も違う。ヴェイスケート殿ら海雄旅団の面々に、タイタンの攻撃パターンを一通り聴き取っていたので、ある程度なら攻撃を予測できる。途中何度かヒヤッとする場面もあったものの、私たちはどうにかかの蛮神を打ち滅ぼすことに成功したのだった。
 神を討ち倒されたコボルド族は悲痛な声を上げ、散り散りにその場を去っていった。古の盟約を違えたのは人のほうだ、自分たちは徹底的に戦う。司祭とおぼしきコボルドはそう吐き捨て、姿を消した。

 念願の蛮神討伐を果たした達成感はあれど、どこか後味の悪さを覚えながら、キャンブ・ブロンズレイクで夜を明かす。黒渦団と砂の家にはタイタン討伐の一報を入れたので、明日、直々に報告をして回ることになるだろう。スパイスの効いたホットワインが体に染みる。
外では、ざあざあと雨が降り始めた。