控えめオスラと花のうさぎ~新生編2

ウイキョウの日記

――それは、あまりに突然の惨劇であった。

 ミンフィリア殿の連絡を受けて石の家へ帰還した私が目にしたのは、つい数日前に私たちを送り出した『暁の血盟』メンバーたちの物言わぬ姿であった。
銃撃、斬撃、打撃……負った傷はそれぞれ異なるものの、傷の深さ、出血量ともに皆ひとしく致命傷だ。

地下に立ち込める血の匂いに耐え、手を震わせながら範囲回復魔法の詠唱をするも、やはり、反応はない。
 たったひとり、シルフ族の新人・ノラクシアは辛うじて息があったが、植物様の小さな体は大きくひしゃげていて、蘇生の魔法も全く通る様子が無かった。

……自然回復を促進させる白魔法が届かない。それはもうその生命が事実上終わりを迎えた証とも言える。
 経緯を伝えようと言葉を絞り出すノラクシア。その証言をを補完するように私の『超える力』の過去視が発動した。帝国による容赦のない襲撃、殺戮の場面が生々しく再現され、酸っぱいものがこみ上げる。ミンフィリア殿をはじめ、幹部クラスのメンバーは捕縛され、連れ去られてしまったようだ。
 過去視が終わると、ノラクシアは「聖アダマ・ランダマ教会へ身を隠してほしい」とミンフィリア殿の伝言を伝え、露のような涙を零す。
  せっかく皆と仲間になれたのに。もっと一緒にいたかった。ミルラが剣を覚えたら一緒に外の世界を旅して見たかった。――そのように無念を語り、ノラクシアは息を引き取った。

私は後ろ髪を引かれながらも、惨劇の現場に背を向ける。そして、周囲を警戒しながらミルラに連絡を取った。幸い、剣術士ギルドへ鍛練へ出向いたことで難を逃れたらしい。私は手短に用件だけを伝え、合流先へチョコボを走らせた。
 敵につけられていることを想定し、かなりの回り道をしたせいか、教会へたどり着く頃にはすっかり日が暮れていた。協力者のイリュド神父へ合言葉とともに事情を伝えると、彼はすぐに事情を理解し事が落ち着くまで匿って頂けることになった。
 すると、先に教会へたどり着いていたのだろう、ミルラがひょっこりと顔を出す。やつれた様子の私を心配する彼に、私は砂の家が帝国軍に襲撃され、多くのメンバーが命を落としたことを、出来るだけ刺激の強い表現を避けて説明した。

しかし、彼はどこか釈然としない様子だ。
「うーんと、死ぬ?って…要するに星に還った…ってこと?」
「星に…?……ええ、シャーレアンの学術書などではそう謳われてはいますが……」
 私が戸惑いながら相槌を打つと、ミルラは「そっかあ……」と声を漏らす。


「――じゃあ、寂しいけど、お祝いしなくちゃ!」
「ミルラ?」
 その言葉に、私は耳を疑った。『お祝い』。今彼はそう言ったのか?

「ボクにはよく分かんないけど、きっと、全てをやり遂げた皆が選んだ運命なんだもんね。そっかぁ、転生してくるまでしばらくのお別れかぁ」
 しみじみと頷くミルラに、私は言葉が出なかった。
 一体何を言っているんだ。やり遂げたなど、そんなことあるものか。彼らが、彼女らが、どれだけの無念を抱えて逝ったと思って……!!
 そういった衝動的な感情が胸の内に湧き上がるも、彼の顔を見て、その言葉を飲み込む。
澄んだ瞳に、寂しそうな表情。――揶揄いや煽りなどではない。この子は……本当に心の底から言っているのだ。


「あれ、ウイキョーどうしたの?なんだか具合悪そう……」
「……ええ。少し疲れたみたいです。先に休ませて頂きますね」
 ずっと心配そうにこちらを見つめていたイリュド神父へ声をかけ、私は逃げるように与えられた共用の休憩室に移動する。
 本当は教えるべきことが山ほどあるのだろう、けれども、余りのことに心の整理がつかない。
 ああ、私は、なんて無力で……狭量なのだろう。言い表せないやるせなさに苛まれながら、私は瞳を閉じ、浅い眠りについた。