控えめオスラと花のうさぎ~新生編5

ミルラの回想


 その日、ボクはベスパ―ベイ郊外で順路の確認作業をしていた。
 ミンフィリアが育ての親のフ・ラミンさんとの再会を果たし、かねてから検討されていた『暁』の本部移転が行われることになった。
タタルをはじめ、非戦闘員の皆は帝国の残党や魔物の襲撃をさけるため、少人数で移動するらしい。その下準備として、ボクは街道の状態や魔物の様子を確認しに来ていたのだ。
 幸い、路も補修されたばかりで魔物の群れも見当たらない。報告して引き上げよう。そう思ってリンクパールを手に取った、そのとき。
「――そのエーテル。君もハイデリンの使途のひとりか」
 突如背後から声を掛けられ、驚いて振り向けば、そこには白い法衣を纏った仮面の男が佇んでいた。
「え、アシエン……のヒト?」
「ほう、やはり君も私を認識出来るか。人とはやや異なる存在のようだが、我々にどこか近しいものを感じるな」

 

こちらを見据えて淡々と話す彼から後ずさりをしていると、後ろから、ウイキョーの呼ぶ声と足音が聞こえ、ホッと胸をなでおろす。
「ミルラ、怪我はありませんか」
「う、うん……気づいたらこのヒトに後ろから話しかけられて……」
 ボクの説明にウイキョーは頷き、杖を構えて白法衣の男を睨みつける。一方で男はここで戦う意思はないことを示した。道中、ウイキョーに魔物をけしかけたらしいが、それもあくまで彼の実力を測るための余興に過ぎないという。直にハイデリンは失われ世界も人もあるべき姿に戻るのだ、とも語った。
 そして、彼は自身を調停者『アシエン・エリディブス』と名乗った。

「……調停者、ですか。その割には随分と露骨に干渉してくるのですね」
「元来、我々と君たちは目的をひとつとした同志だ。挨拶をするのは当然だろう。……それに、他でもない君たちが、共にここへ至ったことが、感慨……深く……」
 警戒するウイキョーに対し、淡々と話をするエリディブスは、何故か急に声のトーンを落とし、黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「……私は……今、何と言った――?」
 突如彼は自問するかのように独白し、そのココロの水面が微かに揺らいだ。ボクも何だか胸騒ぎを覚え、声を掛けようとしたが、ウイキョーが手で遮って制止する。
その間に、彼の心の揺らぎは消えてしまい。「また会おう」とだけ言い残し、どこかへ転移してしまった。
 ――魔法の影響で話すことは出来ないけれど、彼を含むアシエン達の真の目的は理解出来ている。けれども、それとは別に、彼がボク達に特別な感情を抱いているのは何故だろう?
ボクは、大切なことを忘れているような居心地の悪さを感じながらも、首を傾げるしかなかった。