控えめオスラと花のうさぎ~過去編2(思春期編)
■■■■■の語り
――第六星暦、1562年。
各地にガレマール帝国の支配が及び、シャーレアンが5年の準備期間を経て低地ドラヴァニアの植民都市を放棄。
全市民を北洋の本国に退避させる『大撤収』を敢行したころ。
東の国々に於いては、ドマ属州化に伴う帝国の厳しい統治が暗い影を落としておりました。
そのような中、紅玉海に独自の勢力を置く海賊衆の拠点、筋違砦では、夜明け早々、ちょっとした騒ぎが。
見張り役の海賊に起こされたタンスイが、眠い目を擦りながら海辺に向かうと、そこには一層の小舟が流れ着いておりました。
そこには、やせ細ったアウラ族の少年がひとり、すやすやと寝息を立てていて、彼が声をかけると、ボンヤリと青色の眼を開き……突如タンスイの腕に嚙みついたのです。
敵襲かと気色ばむ海賊たちですが、当の少年は――ウイキョウは、そのままへたりこんでしまいました。……どうやら、空腹のあまり軽い錯乱状態であったようです。
そのまま海賊たちに保護されたウイキョウはみそ汁や粥などを与えられ、正気を取り戻していきました。
タンスイの腕に巻かれた包帯を目にすると、サッと顔を青くして深々と頭を下げ、治癒術で怪我を綺麗に治して見せます。
只者とは思えない魔力に目を見張った海賊衆の幹部達は、ウイキョウを風呂に入れて、服を貸し与え、じっくりと事情を聴くことにしました。
ウイキョウは、命を救ってくれたことに礼を言い、これまでの経緯を伝えます。
アジムステップで育ったが、訳あって一族と縁を切り、旅に出たこと。憧れの幻術士ア・トワに会いにエオルゼアへ渡り、グリダニアで幻術士として修業を積みたいこと。
……しかし、道中物盗りに合い、路銀を失い餓死寸前の状態で紅玉海へとたどり着いたこと。
事情を聞いた頭領は、ウイキョウに海賊衆の一員としてここに身を置くことを勧めました。
働いた分の報酬はやる。本来なら一度海賊衆に入ったならば生涯身を置かねばならないが、その辺りは上手く取りなそう、と。
頭領の申し出を受け、「そこまでお世話になれないし、行きたい場所がある」と首を振るウイキョウに、横で話を聞いていた勘定方のツキカゲが諭します。
――各地を旅するという尋ね人の消息にそもそも宛てはあるのか。グリダニアは近頃年若い長が就任したとかで、情勢が不安定になっている恐れがある。着の身着のまま流れ着いたよそ者を受け入れる程の余裕はまず無いじゃろう。
そもそも、ここの海を渡るのなら帆別銭を払って貰わねばならぬ。その先の船賃も馬鹿にならぬであろう。衣食住にも金が必要じゃ。
……金も拠点もない、痩せこけた体ひとつで、つつがなくかの地に渡れると思うておるのか?――と。
ツキカゲの言葉を聞いたウイキョウは何も言い返せず、暫く黙りこんでいましたが、静かに頷いて頭領の前にかしづき、言いました。
「あなた方の言う通りだ。どうかここで働かせてください」と。
――こうして、紅玉海の海賊衆の元、ウイキョウの新たな生活が始まったのです。