控えめオスラと花のうさぎ~過去編2(思春期編)
■■■■■の語り
こうしてウイキョウは以降、海賊衆の仕事により一層精を出し、市場経済や情勢についても明るくなってゆきました。
帝国圧政下の厳しい現実に時に日々心を痛めながらも、その上で、今仲間のために出来ることをともに考え、行動してゆく。――その中で彼を慕う後輩や弟子も現れ始め、勘定方や製薬の仕事も複数人で賄うようになりました。
もちろん、荒事にも対処出来るよう、戦いの鍛練も欠かさず続けてゆきます。
…その結果。年頃のアウラ族の男としては細身だった体が2、3年で急成長。齢20を過ぎる頃にはすっかり大柄で筋肉質な大人の姿に変わっていました。
そして、それに習うように、彼は口調や振る舞いも、『礼儀正しく、冷静な大人』であるよう、自らに課していきました。…それはまるで、子供で未熟であった自分を捨て去るかのようで。立ち振舞いも別人のように変わっていったのです。
そうして、彼が23歳になり。ついに『追放』の名目で紅玉海を巣立つ時がやって来ました。
既に頭領の座を継いでいたラショウは、ファミリーネームが無いと何かと不便だろう、と言い、ウイキョウへ、旅の餞別として『ユキノシタ』という姓を与えました。
大雪にも耐える高い生命力を持つ薬草の名を関することで、この先彼が逆境にも負けぬ強い心を持って旅路を歩めるよう、願いを込めて付けたものです。
彼はその姓をいたく気に入り、以降、自らを『ウイキョウ=ユキノシタ』と名乗るようになります。
罰を受ける者であるにも関わらず、砦を出港するときは、彼を慕う薬草学や弓術の弟子、勘定方の弟弟子、そして長年彼を見守り続けていた古株の海賊たちも大手を振って彼を送り出しました。
「体に気を付けて!」
「グリダニアが窮屈になったら何時でも帰ってこい!」
「お土産、期待してます!」
「死ぬなよ!」
「どうかよき旅を!」
数々の激励の声に背を押され、ほんの少し涙ぐみながら。ウイキョウは第2の故郷を後にしました。
時は第六星暦1571年。――そう。かのカルテノーの戦い、第七霊災を目前とした年であったことを。
かの英雄は知る由もありません。
……苦難と哀しみに苛まれながらも、それを包み込む程の暖かな人の心に守られた彼の四半世紀が終わりを告げ、やがて数年の時を経て、想像を絶する動乱の中心へと、彼は誘われます。
ああ。その魂に課された果て無き運命を、私も見届けたいのだけれど。
いよいよ、それも許されなくなってしまいました。
だからどうか…乗り越えて…たどり着いて。
その先で。私は―――